EAにとって「値動き」は、ポジションを持つか、待つか、利益を伸ばすか決済するかを決める土台です。単に上がる下がるだけでなく、動く速さや大きさ、時間帯のクセといった要素が重なって、その日の勝ち負けが形になります。ここを最初に意識しておくと、同じEAでも無理のない取引に近づきます。
まずは時間軸の選び方です。短い時間足は動きが細かく、ノイズも多い反面、チャンスがたくさん来ます。長い時間足は一回の判断がゆっくりで、伸ばせるときは大きく取れますが、待ち時間が増えます。EAの狙いが「小さく早く」なら短い足に合わせ、「ゆっくり確実」なら長い足に合わせると、値動きとリズムが合いやすくなります。どちらを選んでも、エントリーと決済の距離は、その時間足でよく出る値幅に合わせるのが基本です。小さすぎるとすぐ振り落とされ、大きすぎるといつまでも届かず、損切りだけ拾いやすくなります。
次に、レンジとトレンドの見分けです。値段が往復して同じあたりで止まりやすい日がレンジ、片側へじわじわ進む日がトレンドです。レンジが得意なEAは、端から端までの幅がほどほどにあるときに力を出します。トレンドが得意なEAは、途中の小さな逆行に耐え、波に乗っていく設計が向きます。毎日がレンジでもトレンドでもないので、運用の場では「今日はどちらっぽいか」を軽く判断し、不得意な環境ではロットを落とす、あるいは新規を控えるだけでも成績は安定します。
時間帯のクセも見逃せません。人が多く集まる時間は一気に動きやすく、静かな時間は細かい往復が増えます。人が増えるタイミングでは値段の跳ねが大きく、ズレやすさも増えます。静かな時間はスプレッドが広がることがあり、思ったよりコストが重くなります。EAのルールに「この時間は新規を止める」「広がったら見送る」といった簡単な線引きを入れておくと、余計な負けを減らせます。大きな発表の前後は、短い時間で上下に振ることが多いので、あらかじめ新規を止める設定にしておくと安心です。
距離の決め方は、直近の値幅を目安にすると失敗が減ります。ここ一週間や直近数時間で、平均するとどのくらい動いているかを見て、その範囲に合わせて利確と損切りの距離を置きます。最近よく出る幅の半分より小さくするとノイズに当たりやすく、倍より大きくすると届かないことが増えます。伸びやすい時間だけ少し利確を広げ、静かな時間は早めに手仕舞うといった小さな工夫でも、積み上がる結果は変わります。
「動きの速さ」も重要です。速い日は、信号が出てから実際に注文が通るまでに差が出やすく、ズレが増えます。遅い日は、待ち時間が長く、機会が少なく感じます。EAの条件がタイトすぎると、速い日に置いていかれ、遅い日に空回りします。余裕を少し持たせ、条件に幅を残すと、どちらの日でも動きやすくなります。もし速い日の負けが目立つなら、その時間帯だけ新規を控える、利確を浅くする、損切りを少し遠くに置くなど、値動きに合わせた小さな調整が効果的です。
見落としがちな点として、同じ通貨でも日によって性格が変わることがあります。前の日に強く動いた通貨は翌日に一息入れやすく、週明けや週末は流れが切れやすいこともあります。EAを複数回すときは、似た動きをしやすい組み合わせが重ならないように気をつけます。テーマがはっきりした日は、複数の通貨が同じ方向へ走りやすく、ポジションが一方向に偏ることがあります。そんな日はロットを落とす、上限に早く届いたら新規を止めるといった口座全体のルールが効いてきます。
過去の検証では、静かな時期だけでなく、荒れた時期や強く伸びた時期も必ず入れて成績を見ます。静かな相場だけで良く見える設定は、実運用で裏切られがちです。本番に移す前に、デモや小さなロットで短く試し、どの時間帯で勝ちやすく、どの時間帯で負けやすいかを自分の環境で確かめます。数字が極端に偏るなら、その時間帯の新規を止めるだけでも、全体のブレは落ち着きます。
日々の見回りでは、値動きの速さと幅がいつもと違う日に、成績がどう変わるかをメモしておきます。負けが増えたなら「速い日」「静かな日」のどちらで起きたのか、利確と損切りの距離は適切だったか、時間帯のルールに引っかかっていないかを確認します。原因がはっきりしたら、小さく一つだけ変え、数日動かしてから次の手を考えます。一度に多く変えると、何が効いたのか分からなくなります。
以上のように、EAは値動きそのものと会話する道具です。時間軸を値幅に合わせ、レンジとトレンドの雰囲気をつかみ、時間帯のクセを避け、直近の値幅に沿って距離を置き、速い日と遅い日に小さく調整する。たったこれだけを丁寧に続けるだけで、同じEAでも落ち着いた運用に近づきます。値動きを敵にせず、味方にする視点を持てば、無理なく長く続けやすくなります。